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残す思い
平成19年1月12日(金)

旧室谷家住宅、解体へと言う見出しの新聞記事を見かけました。旧室谷家住宅とは神戸市須磨区の離宮公園前にある個人宅であった洋館です。設計したのは米国出身の建築家ウィリアム・メレル・ヴォーリズ。この建物は国登録有形文化財であったが、阪神大震災後の傾きで倒壊の恐れがあるということでの解体方針らしい。

須磨区での建築現場の都合で、よくこの建物の前を通っていました。英国風の木造レンガ造の様式にいつも、心が惹かれる思いでしたが、本当に解体であれば残念でなりません。ただ、元所有者と現所有者、神戸市、兵庫県との間で保存に関する何らかの話合い、解体凍結への要望書も出ているようなので、今後の推移を見守りたいと思います。

旧室谷家住宅を設計したウィリアム・メレル・ヴォーリズは明治期に米国から赴任した教師でした。熱心なキリスト教徒であったヴォーリズは初めての赴任先である滋賀県近江八幡市で英語教師として、活躍します。後に建築家として、数々の建物を設計します。関わった建築設計は千を超えると言われます。彼の設計した建物は慈愛に満ちた機能的で美しいものです。現在、その設計思想の流れを汲んでいるのが、「一粒社ヴォーリズ建築事務所」です。

文化財建築との定義で以前は江戸時代より古いものが文化財指定されていました。ただ、ここ数年、明治以降の建物にも一定の価値を見出す動きがようやく始まってきました。それは、産業遺産や明治、大正の文明化の象徴であった洋館の保存、活用の動きからも言えます。しかし、昭和初期建築の個人住宅であった旧室谷家住宅のように、保存・改修に莫大な費用がかかるものに対しての特別な方向性がつかめてないのが現実です。

中島工務店も多少なりともヴォーリズに関係しています。一昨年、神戸支店で施工させていただいた「大阪YWCAウィスティリア」(キリスト教関連の事務所、保育園)を設計されたのが、一粒社ヴォーリズ建築事務所出身の建築家でした。ヴォーリズの流れを汲む方です。

ウィリアム・メレル・ヴォーリズが来日し、建築を始めて100年近い年月が経とうとしています。彼の携わった建築物は紆余曲折しながらも、多くが残っています。また、現在も親しみを込めて、活用されています。(有名なのは大丸心斎橋店:1922年竣工・大阪市)

現代は技術の進歩は日々進んでいます。しかし、ふと、立ち止まり、先人に残してもらった建物や思いに触れることとも必要でないかと思います。旧室谷家の保存問題に関しても、機能を追及するばかりでなく、建物を残す思いを少しは考えていきたいと思います。
                                       
                                     神戸支店  丸子健士
by npskobe | 2007-01-12 11:08
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